投球動作のメカニズムと痛み

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はじめに


多くの方がご存じの通り、野球の投球動作は腕の力だけでボールを投げているのではなく、足から手の指先までを使う全身運動になります。これらのことは、野球経験者であれば常識として理解されていることが多いと思います。

しかし、あなたの肩や肘に痛みが出ていたり、投球の調子がどうも悪いと感じられている方においては、投球の動作でカラダが正しく動いているのかを再確認する必要があります。


どうしても日常の練習やトレーニングに追われ、限られた時間の中で行うストレッチなどでは、カラダのケアが十分に行き届かない場合もあると思います。そのため、投球動作を頭では理解していても、実際はその動きが行えなくなっていたという場合が多々みられてくるのです。



投球動作のフェーズ分け(動作の分解)


投球動作を分解すると、前脚を上げ、ボールを持った手を後方に上げながらカラダを回旋させ、トップポジションから股関節、骨盤、胸郭、肩甲帯の順で前方回旋動作が行われ、最後に腕がカラダの回旋によって生じた遠心力によって「ムチ」のように振られることでボールが投げられます。この動作を分解すると下記のように表現することができます。

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1.ワインドアップ期 (投球開始のポジション)

2.コッキング期 (腕を後方に引き構える)

3.アクセレレーション期 (腕を後ろにおいた状態からリリースするまで)

4.リリース (手からボールが放たれる)

5.ディセレレーション期 (リリース直後からの腕の減速)

6.フォロースルー期 (リリース後から腕を振り切るまで)

 

1.ワインドアップ期 
投球動作の一番最初の動作で、前足を上げ軸足でしっかりと立つまでを表します。
一般的な野球肩の場合ここで痛みが出ることはありません。


2.コッキング期
前に踏み出した足が地面に着地し、カラダが最大限に捻られ腕が後方に引かれた状態までを表します。

 ● アーリーコッキング期:ワインドアップ期から前足が地面に着地するまでを表します。
 ● レイトコッキング期:前足が地面に着地してからボールを一番後ろに引いた時までを表します。

コッキング期で股関節・体幹・肩甲骨といった関節の動きが不足していると、肩周囲の筋肉、腱、関節包などの組織には非常に大な負荷がかかり損傷しやすくなります。


3.アクセレレーション期
腕を後ろに引いた状態から、リリースするまでを表します。

股関節・体幹・肩甲骨などの関節の動きが不足していると、胸・肩・腕などの過剰な筋力を用いなければボールを加速させることができないので、肩や肘の関節やその周囲にある筋肉、腱、関節包などの組織は非常に大きな負荷を受けることとなり損傷しやすくなります。


4.リリース
指からボールを放すことを表します。


5.ディセレレーション期
リリース直後のから振られる腕にブレーキをかけることを表します。

肩や腕の努力的な力だけを用いて投球している場合、腕のブレーキにも過剰な力を必要とするため肩の後方にある筋肉、腱、関節などの組織は非常に大きな負荷を受け損傷しやすくなります。


6.フォロースルー期

リリース後、ボールを放してから腕を振り切るところを表します。



野球肩・野球肘の痛み


野球による肩や肘の痛みで悩まれる方は多いと思いますが、その原因は非常にシンプルで、痛みが出ている場所以外の複数の場所が動きにくくなっているために「肩や肘の関節が過剰に働かなければならなくなった」ということになります。しかし、実際は力まかせの投球により痛みが出ている関節も動きにくくなっていることが多いため、痛みの原因は非常に複雑な状態になっている場合があります。このようなことから治療者においても肩の治療は難しいとという印象があると思います。

腕がトップポジションの位置で後方に引っ張られるようなストレスがかかったときにカラダの回旋が不十分であれば、肩の前や後ろに痛みが出現することが多いと思われます。さらに、腕が上がりにくくなっている場合はインナーマッスルである棘上筋などが機能しにくくなっており肩の横側や上のあたりの痛みが加わります。

野球肩・野球肘は、カラダの回旋が適切に行われなくなったことによって生じたケガになります。繰り返す腕の回旋ストレスで肩の不安定やインナーマッスルの腱板、関節唇、上腕二頭筋腱の損傷、あるいは肘の靭帯の損傷・弛緩が複合的に生じたものだと考えられます。

野球による肩・肘の痛みは、それぞれ個人の技術、経験、年齢、練習量、疲労の蓄積、コンディション、メンテナンス・ケアなどによって様々な症状となり、誰もが同じ場所の損傷が起こるわけではありませんが、投球動作で最もストレスがかかるインナーマッスは棘上筋であり、棘上筋肩板に生じる腱線維の部分断裂、炎症はほぼ必発的であるといわれています。

また、肩の腱板は非常に血行の乏しい場所であるためいったん傷つくと組織の治癒過程は遅く完全に治るまでに多大な時間を必要とするため、この棘上筋への負担を極力回避しておくことが野球肩を予防する1つのポイントとなります。

通常、野球による肩の痛みではレントゲンの異常はないことが多いですが、強いストレスが持続的に続いたものはBennet骨棘といわれる骨が増殖したトゲのようなものが関節包や三角筋付着部にみられることがあるようです。


肩の腱板損傷

ほとんどの野球肩は、肩関節の柔軟性拡大と関節の安定を図ると同時にカラダの回旋を使って投げれるようになれば痛みが出ることはないのですが、肩板損傷に至り肩板の断裂が大きく腱断裂の自然治癒が望めない場合があります。このような場合、全身状態の改善や肩の安定など試行錯誤を繰り返しても痛みが続きます。このような場合は手術の適応になる場合もあります。 



投球肩の予防

実際の投球動作はそれほど肩の回旋は必要なく行えるものなのですが、現在においても特に投手の肩は消耗品とされ、投球動作はカラダに無理をかけるものだと考えられています。

しかし、健全な投球動作は骨盤や体幹の回旋により遠心力を生み出すため、肩の回旋はそれほど無理なく行えるのですが、股関節・体幹・肩甲骨などの回旋がスムーズに行えなくなると、肩の回旋が必要以上に要求されます。その積み重ねは肩板損傷など野球肩の痛みにつながります。

肩の回旋を使って投げるイメージは多くの方が抱いている投げ方のイメージかもしれませんが、肩を回旋させて投げるフォームが肩へのストレスを高めていると考えると、投げ方を変えなければ、野球を休んで痛みが落ち着いても再発する可能性は高くなります。

野球肩を根本的に治していくためには股関節や体幹を十分に回す投げ方を行えるようにカラダのシステムを変える必要があります。



インナーマッスルの重要性


野球肩の痛みが出ている場合、無理な投球動作により肩の安定性が失われ、肩のインナーマッスルが機能しにくくなっている場合が多くみられます。これは、大胸筋や三角筋あるいは広背筋といった大きな筋肉の過剰な緊張によって肩の適切なポジションが取れなくなり、インナーマッスルが機能しにくくなっていることが考えられます。

トレーナーなどからインナーマッスルのトレーニングの指導を受けたり、ご自身で学ばれインナーマッスルのトレーニングを行われるあると思いますが、各関節の柔軟性を修正しなければインナーマッスルが働いてきにくいことや、本来のインナーマッスルのエクササイズは通常皆様がイメージされているよりも非常に繊細なトレーニングになるため難しい部類に入ると思います。

筋力トレーニングといった意識でインナーマッスルのエクササイズ行ってしまい、大きな筋肉の緊張を伴っていればインナーマッスルは非常に機能しにくくなっているので注意を要します。実際にインナーマッスルのトレーニングを行う場合は筋肉を鍛えるという意識ではなく、非常に軽い負荷でインナーマッスルの反応を促すような繊細なコントロールを必要とします。 



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